前回まで書いてきたマンション管理組合には修繕積立金
が設定されていない。38年間徴収されていないのだ。
当然修繕計画などは一切存在していない。この物件の住
人は分譲マンションでありながらあるはずの計画表や、
計画修繕が必要であるという意識すらなく居住してきた
しかし、この点について違和感を持たなかった。このマ
ンションだけが、この住人だけが特別ではない。管理会
社と契約しているマンションの住人すべてが計画表と計
画修繕が必要であると強く意識しているのだろうか?
毎月徴収される積立金とその使途に対して疑問が生じる
という事があるのだろうか? 以前私が5物件を担当し
始めた当時、全ての物件に修繕計画表があるのを確認し
その全てが現実と合っていない事に驚愕した。しかし、
その他の物件を知るごとに、それが当然・普通である事
がわかった。ほとんどの修繕計画表は竣工業者(建設会
社・初めの管理会社)関係者で作成される。その作成方
法は建材・人件費等を年鑑から調べて積算して各修繕工
事に当てはめて表を作成し、25年~30年間で耐用年数と
調査周期のマスに積算額を表記していく。しかし、現実
に修繕の提案があったときに作成した業者に見積を依頼
すると全く違う額となる。計画表作成時と状況・物価が
違うからだという。修繕積立金計画についても同じく、
総会決議もないのに3年目から1.1倍の値上げと5年毎の
一時金1住戸当20万円が設定表記されていたり、そもそも
年額(収入額)が違っていて修繕実施年には全く数字が
違う。修繕費・修繕工事実施状況も修繕積立金も計画と
全く違う。これはすべての物件で同じである。
この状況を考えると、竣工時にディベロッパーか建設会
社がデータに基づいて計画表を作成し住戸購入された方
へ配布する。居住者は見返すことなく、不幸にも耐震
設計に不具合があった等の大きな支障がなければ理事会
等でも話題に挙げられることなく、内容は時間経過と共
に乖離していく。専門家によって計画表は作成され存在
するが利用される事なく、最初の修繕が実施される竣工
10年~12年目のときには現実の積立額・修繕費と全
く違う内容で利用できない。といった所ではないか。
先述してきた特異な管理不全物件の居住者・管理組合は
修繕積立金が設定されていない・設定しなければならな
いという危機感をいつの間にか失った。これは当然管理
不全だという。しかし現実に合わない修繕計画表が存在
し、修繕積立金が徴収されてもそれが管理されたものと
言えるのだろうか。私は担当2年目から全ての計画表を
作成し直した。現状の年間収入(積立金)による30年間
の積算表と各修繕箇所を業者による見積額で埋めていく
作業を実施した。現実的な修繕費累計と修繕積立金累計
を算出して今後の不足分を値上げ額とする。それでも、
毎年緊急修繕や小修繕費等を支出に組み入れれば誤差が
生じてくる為、その都度報告をする。私はこれが当然の
作業工程であると考えて実施しているが、残念ながら、
ほとんどの物件では実施されていないと思われる。
業者や専門家と名乗る者が作成したもの、実施されるも
のは修繕計画表だけではない。規約・契約書・日常作業
金額設定・仕様・業者選定等々。これら現実にあったも
のなのか?管理不全の原因になっていないだろうか?
考査・判断・更生できるのは区分所有者のみである。
長野県マンション管理士会 玉木 憲